電脳六義園通信所管理人 石原雅彦の日日抄

2009/03
2009/02
2009/01
2008/12
2008/11
2008/10
2008/09
2008/08
2008/07
2008/06
2008/05
2008/04
2008/03
2008/02
2008/01
2007/12
2007/11
2007/10
2007/09
2007/08
2007/07
2007/06
2007/05
2007/04
2007/03
2007/02
2007/01
2006/12
2006/11
2006/10
2006/09
2006/08
2006/07
2006/06
2006/05
2006/04
2006/03
2006/02
2006/01
2005/12
2005/11
2005/10
2005/09
2005/08
2005/07
2005/06
2005/05
2005/04
2005/03
2005/02
2005/01
2004/12
2004/11
2004/10
2004/09
2004/08
2004/07
2004/06
2004/05
2004/04
2004/03
2004/02
2004/01
2003/12
2003/11
2003/10
2003/09
2003/08
2003/07
2003/06
2003/05
2003/04
2003/03
2003/02
2003/01
2002/12
2002/11
2002/10
2002/09

2002/08
2002/07
2002/06
2002/05
2002/04
2002/03
2002/02
2002/01
2001/12
2001/11
2001/10
2001/09

2001/08
2001/07
2001/06
2001/05
2001/04
2001/03
2001/02
2001/01
2000/12
2000/11
2000/10
2000/09
2000/08
2000/07
2000/06
2000/05
2000/04
2000/03
2000/02
2000/01
1999/12
1999/11
1999/10
1999/10以前



三好春樹主催・生活とリハビリ研究所サイトの管理日誌です。

【今月の栞】

 四月十一日。
 甲府のまちはずれに仮の住居をいとなみ、早く東京へ帰住したく、つとめていても、なかなかままにならず、もう、半年ちかく経ってしまった。けさは上天気ゆえ、家内と妹を連れて、武田神社へ、桜を見に行く。母をも誘ったのであるが、母は、おなかの工合い悪く留守。武田神社は、武田信玄を祭ってあって、毎年、四月十二日に大祭があり、そのころには、ちょうど境内の桜が満開なのである。四月十二日は、信玄が生れた日だとか、死んだ日だとか、家内も妹も仔細らしく説明して呉れるのだが、私には、それが怪しく思われる。サクラの満開の日と、生れた日と、こんなにピッタリ合うなんて、なんだか、怪しい。話がうますぎると思う。神主さんの、からくりではないかとさえ、疑いたくなるのである。
 桜は、こぼれるように咲いていた。
「散らず、散らずみ。」
「いや、散りず、散りずみ。」
「ちがいます。散りみ、散り、みず。」
 みんな笑った。
 お祭りのまえの日、というものは、清潔で若々しく、しんと緊張していていいものだ。境内は、塵一つとどめず掃き清められていた。
「展覧会の招待日みたいだ。きょう来て、いいことをしたね。」
「あたし、桜を見ていると、蛙の卵の、あのかたまりを思い出して、――」家内は、無風流である。
「それは、いけないね。くるしいだろうね。」
「ええ、とても。困ってしまうの。なるべく思い出さないようにしているのですけれど。いちど、でも、あの卵のかたまりを見ちゃったので、――離れないの。」
「僕は、食塩の山を思い出すのだが。」これも、あまり風流とは、言えない。
「蛙の卵よりは、いいのね。」妹が意見を述べる。「あたしは、真白い半紙を思い出す。だって、桜には、においがちっとも無いのだもの。」
 においが有るか無いか、立ちどまって、ちょっと静かにしていたら、においより先に、あぶの羽音が聞えて来た。
 蜜蜂の羽音かも知れない。
 四月十一日の春昼。

(太宰治『春昼』より)


2006年04月01日 土曜日
■春の便り

 

2006年04月02日 日曜日
■東大の桜とヘンデルのソナタ

 

2006年04月03日 月曜日
■富士山におはよう!

 

2006年04月04日 火曜日
■オールアパウト清水

 

2006年04月05日 水曜日
■ラーメンと桜と春風

 

2006年04月06日 木曜日
■朝の花菱、夜の印度

 

2006年04月07日 金曜日
■恋の桃園

 

2006年04月08日 土曜日
■トレース──めぐる季節に

 

2006年04月09日 日曜日
■庵原川の春とフランダースの犬

 

2006年04月10日 月曜日
■青・黄・赤

 

2006年04月11日 火曜日
■生える

 

2006年04月12日 水曜日
■音無川

 

2006年04月13日 木曜日
■路線バスのちいさな旅

 

2006年04月15日 土曜日
■足場と枠組

 

2006年04月16日 日曜日
■発車サイン音の楽しみ

 

2006年04月17日 月曜日
■雨後の六義園

 

2006年04月20日 木曜日
■【ケアの方舟……21】
水の中の笑い

2006年04月21日 金曜日
■水の行方

 

2006年04月22日 土曜日
■春夏秋冬

 

2006年04月24日 月曜日
■両河内で考えたこと……1【楽園】

 

2006年04月25日 火曜日
■両河内で考えたこと……2【異る様相

 

2006年04月26日 水曜日
■両河内で考えたこと……3【実用】

 

2006年04月28日 金曜日
■新ハムレット

 

2006年04月29日 土曜日
■タイガー食堂とタイガー製版

 

 

 


電脳六義園サイトへのリンクは下のバナーをご利用ください。