電脳六義園通信所管理人 石原雅彦の日日抄

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三好春樹主催・生活とリハビリ研究所サイトの管理日誌です。

【今月の栞】

 園の静けさは前に変わらぬ。日光の目に見えぬ力で地上のすべての活動をそっとおさえつけてあるように見える。気分はすっかりよくなったと言うから、もうそろそろ帰ろうかと言うと、少し驚いたように余の顔を見つめていたが、せっかく来たから、もう少し、池のほうへでも行ってみましょうと言う。それもそうだとそっちへ向く。

 崖をおりかかると下から大学生が二三人、黄色い声でアリストートルがどうしたとかいうような事を議論しながら上って来る。池の小島の東屋に、三十ぐらいのめがねをかけた品のいい細君が、海軍服の男の子と小さい女の子を遊ばせている。海軍服は小石を拾っては氷の上をすべらせて快い音を立てている。ベンチの上にはしわくちゃの半紙が広げられて、その上にカステラの大きな切れがのっている。「あんな女の子がほしいわねえ」と妻がいつにない事を言う。

 出口のほうへと崖の下をあるく。なんの見るものもない。後ろで妻が「おや、どんぐりが」と不意に大きな声をして、道わきの落ち葉の中へはいって行く。なるほど、落ち葉に交じって無数のどんぐりが、凍てた崖下の土にころがっている。妻はそこへしゃがんで熱心に拾いはじめる。見るまに左の手のひらにいっぱいになる。余も一つ二つ拾って向こうの便所の屋根へ投げると、カラカラところがって向こう側へ落ちる。妻は帯の間からハンケチを取り出して膝の上へ広げ、熱心に拾い集める。「もう大概にしないか、ばかだな」と言ってみたが、なかなかやめそうもないから便所へはいる。出て見るとまだ拾っている。「いったいそんなに拾って、どうしようと言うのだ」と聞くと、おもしろそうに笑いながら、「だって拾うのがおもしろいじゃありませんか」と言う。ハンケチにいっぱい拾って包んでだいじそうに縛っているから、もうよすかと思うと、今度は「あなたのハンケチも貸してちょうだい」と言う。とうとう余のハンケチにも何合かのどんぐりを満たして「もうよしてよ、帰りましょう」とどこまでもいい気な事をいう。
 
 どんぐりを拾って喜んだ妻も今はない。お墓の土には苔の花がなんべんか咲いた。山にはどんぐりも落ちれば、鵯の鳴く音に落ち葉が降る。

寺田寅彦『どんぐり』より


  2006年12月01日( 金曜日)の日記
■朝から絶好調
  2006年12月02日( 土曜日)の日記
■落ち葉雑感
  2006年12月03日( 日曜日)の日記
■下書き
  2006年12月04日( 月曜日)の日記
■有人宇宙船の夜
  2006年12月05日( 火曜日)の日記
■「おぞい」と「騙しだまし」
  2006年12月06日( 水曜日)の日記
■ツートン動物記【チーター】
  2006年12月07日( 木曜日)の日記
■ツートン動物記【トナカイ】
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■ツートン動物記【ウシガエル】
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■門と蔵
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■ツートン動物記【クマ】
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■黄色い悲鳴
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■同郷
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■ツートン動物記【ブタとウサギ】
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■夢の続き
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■有度と江戸
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■食事の流儀
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■店と客のフーガ
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■ああ上野駅
  2006年12月21日(木曜日)の日記
■Merry Christmas
  2006年12月24日(日曜日)の日記
■入江南三丁目の奇跡
  2006年12月25日(月曜日)の日記
■もうひとつの五芒星
  2006年12月26日(火曜日)の日記
■言葉と味わい
  2006年12月27日(水曜日)の日記
■蝉しぐれ
    2006年12月28日(木曜日)の日記
■鮭転転
  2006年12月31日(日曜日)の日記
■風のように
     
     
     
     
     
     

 


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