電脳六義園通信所管理人 石原雅彦の日日抄

2009/03
2009/02
2009/01
2008/12
2008/11
2008/10
2008/09
2008/08
2008/07
2008/06
2008/05
2008/04
2008/03
2008/02
2008/01
2007/12
2007/11
2007/10
2007/09
2007/08
2007/07
2007/06
2007/05
2007/04
2007/03
2007/02
2007/01
2006/12
2006/11
2006/10
2006/09
2006/08
2006/07
2006/06
2006/05
2006/04
2006/03
2006/02
2006/01
2005/12
2005/11
2005/10
2005/09
2005/08
2005/07
2005/06
2005/05
2005/04
2005/03
2005/02
2005/01
2004/12
2004/11
2004/10
2004/09
2004/08
2004/07
2004/06
2004/05
2004/04
2004/03
2004/02
2004/01
2003/12
2003/11
2003/10
2003/09
2003/08
2003/07
2003/06
2003/05
2003/04
2003/03
2003/02
2003/01
2002/12
2002/11
2002/10
2002/09

2002/08
2002/07
2002/06
2002/05
2002/04
2002/03
2002/02
2002/01
2001/12
2001/11
2001/10
2001/09

2001/08
2001/07
2001/06
2001/05
2001/04
2001/03
2001/02
2001/01
2000/12
2000/11
2000/10
2000/09
2000/08
2000/07
2000/06
2000/05
2000/04
2000/03
2000/02
2000/01
1999/12
1999/11
1999/10
1999/10以前



三好春樹主催・生活とリハビリ研究所サイトの管理日誌です。

【今月の栞】
 しかしその年はまだ全然実入りがなかったのではなかった。金持ちの味噌屋はたのしみに最後に残しておいて、他の家々を午前中廻った。お午までに――木之助は何軒の家がお礼をくれたかはっきり覚えていた――十軒だった。そしてお礼のお銭は合計で十三銭だった。最後に味噌屋にゆくと、あの頃からはずっと年とって、今はいい老人になった御主人が、喘息で咳き入りながら玄関に出て来て、松次郎がいないのを見ると、おや、今日はお前一人か、じゃまあ上にあがってゆっくりしてゆけと親切にいってくれた。木之助は始め辞退したが、あまり勧められるので立派な座敷にあがり、そこで所望されるままに、五つ六つの曲を弾いた。主人はほんとうに懐しいように、うむうむとうなずきながら胡弓に耳を傾けていたが、時々苦しそうな咳が続いて、胡弓の声の邪魔をした。いつものように御馳走になった上多ぶんのお礼を頂いて表に出ると、まだ日はかなり高かったがもう木之助には他をまわる気が起らなかった。味噌屋の主人にさえ聴いてもらえばそれで木之助はもう満足だったのである。
 それからまた数年たって門附けは益々流行らなくなった。五、六年前までは、遠い越後の山の中から来るという、角兵衛獅子の姿も、麦の芽が一寸位になった頃、ちらほら見られたけれど、もうこの頃では一人も来ない。木之助の村の胡弓弾きや鼓うちたちも、一人やめ二人やめして、旧正月が近づいたといっても以前のように胡弓のすすりなくような声は聞えず、ぱんぱんと寒い空気の中を村の外までひびく鼓の音も聞えなかった。これだけ世の中が開けて来たのだと人々はいう。人間が悧口になったので、胡弓や鼓などの、間のびのした馬鹿らしい歌には耳を藉さなくなったのだと人々はいう。もしそうなら、世の中が開けるということはどういうつまらぬことだろう、と木之助は思ったのである。

新美南吉『最後の胡弓弾き』より


  2008年01月01日(火曜日)の日記
■元日に思う
  2008年01月02日(水曜日)の日記
■元旦の桜
  2008年01月03日(木曜日)の日記
■1・2・3・4
  2008年01月04日(金曜日)の日記
■雪に備える
  2008年01月05日(土曜日)の日記
■かやの木
  2008年01月06日(日曜日)の日記
■牡丹
  2008年01月07日(月曜日)の日記
■なんてごちゃごちゃしてるんだろう
  2008年01月08日(火曜日)の日記
■待つわ
  2008年01月09日(水曜日)の日記
■タバコと芸術
  2008年01月10日(木曜日)の日記
■パンダと駄菓子屋のおババ
  2008年01月11日(金曜日)の日記
■ナショナルの夕暮れ
  2008年01月12日(土曜日)の日記
■品川往来
  2008年01月13日(日曜日)の日記
■清水からの慰問袋
  2008年01月14日(月曜日)の日記
■風の通り道
  2008年01月15日(火曜日)の日記
■上野は笑う
  2008年01月16日(水曜日)の日記
■秋葉原に一番近い街
  2008年01月17日(木曜日)の日記
■ニルスのように
  2008年01月18日(金曜日)の日記
■無縁坂のぼりくだり
  2008年01月19日(土曜日)の日記
■三四郎
  2008年01月20日(日曜日)の日記
■信濃川冬景色
  2008年01月21日(月曜日)の日記
■花と音楽
  2008年01月22日(火曜日)の日記
■プチ雪国
  2008年01月23日(水曜日)の日記
■古今東西
  2008年01月24日(木曜日)の日記
■六義園雪景色
  2008年01月25日(金曜日)の日記
■関東甲信越中部北陸
  2008年01月26日(土曜日)の日記
■夢に学ぶ
  2008年01月27日(日曜日)の日記
■薄氷(うすごおり)
  2008年01月28日(月曜日)の日記
■距離の置き方
  2008年01月29日(火曜日)の日記
■烏(からす)啼(な)きて木に高く
  2008年01月30日(水曜日)の日記
■東京マラソン
  2008年01月31日(木曜日)の日記
■食物劇場

 


電脳六義園サイトへのリンクは下のバナーをご利用ください。